2018.06.20

なりわいを考えるシリーズ

いのちの向かうさき (星が丘ホーム)

いのちの向かうさき (星が丘ホーム)

文: 大和牧美    写真: 大和明日香

徳岡八重子さんに初めてお目にかかったのは4年ぐらい前だっただろうか?、、 お料理が上手で漬物がとっても美味しくて、「地域の肝っ玉母ちゃん」のようなイメージ。グループホームを自分たちで作って運営していると聞いて驚いた。

檜など天然素材で作られた建物。食事は無農薬のもの。あり得ない尽くしのことに私の好奇心がむくむくと頭をもたげる。なんどか訪問させていただいているのだが、今回改めてお話を伺うことにした。

「できない」はない。

星が丘ホームは住宅街の中で普通の一軒家の佇まいで地域に溶け込んでいる。阪神大震災のあと、震災以降も関連死があいつぐ実態に、

-もう誰も死なせない-

-もう待てない―

強い意志を持ってホームの建設を心に決めた。土地の取得、建物の建築、40代の主婦が始めようとは普通なら思わない。何千万とかかる費用を考えると、そんなのは無理だと思うのがまぁ普通だろう。だが、この肝っ玉母ちゃんはけしてあきらめることはない。

「できない」はない、「ないなら自分たちで作れ」徳岡さんはいつも前しかみていない。

入居者さんが「やりたいこと」を実現する。

そもそも1960年代、安全な食べ物を求めてグループを作り、直接農家さんまで野菜を取りにいくなど産消連携の活動に尽力してきた徳岡さん。優先順位は命、だからこそ、建物と食に徹底的にこだわる。

だけれども、星が丘ホームの特徴は建物や食事だけではない。なんといっても「自由である」ことだ。

ホームのカギは日中は開いていて、利用者さんは好きにでかけることができる。車椅子でも飛行機にのせてホームの旅行で沖縄なんかにも行ってしまう。

できるだけ、利用者さんの「やりたいこと」をなんとか実現しようと職員みんなが手助けしてくれる。そのせいか、みなさん顔の色つやもよく、お元気でよく喋る。

「他の施設ではある意味手に余るような人ばかりなのかも、、、よ」と徳岡さんは笑う。

「やりたい」ことを口に出すこと、やろうとすること、それは職員の仕事を増やすことではあるけれど、その「やりたい」「こうありたい」を大事にするからこそ、長生きもするし、ある意味ホームの稼働率もあがり、経営を安定させることにも繋がるらしい。なるほど。

「ホームの運営で利用者さんの事故などのリスクをどう考えていらっしゃいますか?」

と尋ねると、即答で「命以上のリスクはないでしょう」とかえってきた。「もちろんこの場合の命は長さではなく、生きる方向のことよ」と。

人それぞれを輝かせ、個性を引き出す。命の方向にプラスになるためのことはリスクではないの。」

「利用者さんはお客様という発想はないです。地域で共生していく仲間と思っています。家族ならとことんの話し合いをするでしょう? 端からは喧嘩にみえても、それは相手を思えばこその本音のぶつけあい。深い意見交換会やね~。(ここ、唸りました。深い意見交換会、上手い!)利用者さん、ご家族、ホームの職員、そこに対話があるからこそ、リスクはなくなります。」

また、こうも仰る。

「生きている実感は感情があってこそ。ちょっと嫌だなぁと思う感情、馬鹿にされたくないという自尊心、まだまだ私にだって出来るというプライド、そういう感情があるからこそ自分でいられる。優しくされることだけ、全てやってあげるだけ、でもダメ。否定はしないし、傷つけるのももちろんダメだけれど、そのギリギリのところで利用者さんの様々な感情を引き出すことも生きる原動力になる。」

そんな星が丘ホームだから、通常のホームよりも職員の数が多く手厚い。

では。それで経営が成り立つのだろうか?

人の人生の最期の輝きに責任を持つ

「いやぁ、もう自転車操業ですよ~」 と徳岡さんはゲラゲラと笑う。

綱渡りのようだと言いつつももうすぐ20年。続けられたのは支えてくれた職員のお蔭です、と。中卒、大学院卒、還暦の介護福祉士、星が丘ホームに勤める職員の経歴は様々で、多彩な人の集まり。でも待遇は同じ。それぞれに役割はあるといっても、その時その時で臨機応変に動く。仕事に線引きしない。やれる人がカバーするチームだ。子連れも出勤可で、子供はむしろお年寄りの喜びになるので大歓迎。

「人の人生の最後の輝きに責任を持つ。それを共有できないとこの仕事はできないね。」

人を幸せにするのが趣味な人でないと続かないそうだ(笑)

また、20年でやっと地域との絆もできてきたそう。いつか自分たちもお世話になるかも?との目線で気にかけてくれる人が増えた。色々なものを持ってきてくださったりもする。そういった関係も存続させるためには必要だそう。

 

「この大変な仕事を続けていける原動力は何ですか~?」

「う~ん、仕事と思ってないわね。毎日が楽しいから! 人間観察が大好き!こんなにサンプルが集まる場所もないでしょう? 面白くって仕方ないわよ~。」

一人一人が持っているドラマ以上のドラマ。人の人生の最後の輝き。命のバトンタッチ。

こうやって死ぬまでこの方は、面白おかしく、そして人の人生を見つめて生きていかれるんだろうな。

星が丘ホーム(特定非営利活動法人 福祉ネット星が丘)

神戸市垂水区星が丘に1999年に設立

富山方式を採用(支援が必要な人を誰でも受け入れている小規模施設。 高齢者だけではなく、子どもや赤ちゃんも、障害のある人もない人も一緒に過ごせる場)

設立までの苦労話や想いを綴った「星が丘ホームのキ★セ★キ」が自主出版されている

大和牧美

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