2018.10.12

レポート

再現性がない分野ゆえの唯一無二の技術と経験。長田から世界へ挑む町工場~宮原ゴム株式会社

再現性がない分野ゆえの唯一無二の技術と経験。長田から世界へ挑む町工場~宮原ゴム株式会社

宮原ゴムはゴムスポンジメーカーで、立ち位置的には素材メーカーといわれる企業だ。父親の代で創業してから50年。素材メーカーとして安定した経営を続け、なりわい続けている秘訣を宮原社長に教えてもらいにうかがった。

「でも、僕らは芸術作品を作っているわけではないからね」

『素材メーカー』という立ち位置でゴムスポンジ製造をなりわいとされる宮原さん。『モノづくり』をどうとらえているのか?

「『モノ作り』がバズワードみたいになってますけど、僕はねぇ、逆に『モノづくり』という意識はあんまりないんですよ。」

と言い切る。

意外な答えだった。宮原ゴムのHPからは、素材メーカーとしての質や技術への強いこだわりが感じられたからだ。

「もちろんモノは作って、モノの質にはこだわっていますよ。それは自社製品に関してね。結局僕らのスポンジがレクサスに入っていても、そのうちのほんの一部品。でも「(レクサスは)やっぱり静かやな」とドライバーさんが思ってくれるという『サービス』や『体験』につながっていく。そのお客様に体験していただくことがゴール、そこが最終到着地点なわけですからね。」

自分の力の波及先は目に見えない。

でも確実に自分たちの作ったものが、使っている人の幸せにつながっているという自信がある。そんな感覚なのだろうか?

「素材ではなく、消費者の手に直接届く最終製品を作ってみたいと思ったことはありませんか?」と聞いてみた。だが、あまりそういう願いはないようだ。

「よく聞かれるんですが、元々僕は黒子でいるのが好きな人間なんです。カーテンが空いて、女性が拍手喝さいされているのを、裏から見ているのが好き。それで全然OKなんですよ(笑)」

表舞台に立つAKBを見守る秋元康…。社会の中では表舞台に立つ人・モノも、それを成功に導くすべてのプロセスも、どれ1つ欠かせない。

『モノづくり』というと、私はモノひとつひとつ、細部へのこだわりのようとらえていたけれど、もしかして宮原さんはそんな視点では捉えていない?

「正直言うと、めちゃくちゃこだわって作ってきたんで、世界で一番ゴムスポンジに思い入れがあります。海外の展示会に行って気づきました(笑)。海外でも物で勝負できるとね。例えば、僕らが海外の展示会に行くと、大体小さなブースなんですよ。世界のトップメーカーも沢山出ているんで、偉そうに見にくるんですよ。そこでサンプルをサッと出して説明して『これはお前のところはできないだろう。どやっ!』と。」

見ている内に、向こうの顔色が変わってきたりすることはありますか?

「向こうは向こうで『そんなのニーズあるか?』とか言ってくるんですよ。『でもお前らできへんよね』ってなるわけです。それはもうメーカー間の駆け引きです(笑)。見事にハマりました。すごいチャレンジして、かなり作るのが難しかった製品を持っていったこともありました。ただそういうのはすごくお金がかかるので、中々市場としては認めてもらえない」

 

『質』と『値段』のバランス。作り手側にとっても、買う側にとっても、永遠のテーマかもしれません。

「そういった意味では、頭を叩かれてきました。均質じゃないスポンジなんて、僕らからしたら「不良品やん!」と思うんですが、値段の安さなどの理由で自分たちの製品が選ばれない。確かに値段としては高いかもしれないが、10年、15年と製品がもつトータルコストの観点で考えた時にはどうなるのかが、伝わりきらないことがある。
『分かってもらえないなら、買ってもらわなくていい!』って思ったこともありましたよ。でもそれでは世の中で受け入れてもらえない。」

それは本当に悔しいですよね。私にも似たような体験がある。新卒で入った会社の商品も、とにかく品質と技術にこだわって作っていて、値段が高かった。営業としてリピーターのお客さんところに行っていて、先方の担当が変わるとあっさりと「安いものに変えたよ…」と。

内容や本質を理解した上で選択して変えたのなら分かるが、「安い」という理由で質の低いものに変えられて、本当に悔しかったのを覚えている。

「でも、僕らは芸術作品を作っているわけではないからね」

確かに。その通りだと思います。

芸術作品なら、自己満足のみで成り立つかもしれない。でも、世の中できちんと理解され受け入れられなりわうためには、常にそのプロセス全てを理解してもらう努力は欠かせない、ということでしょうか。

「自分は幸せになりたい。なにが自分にとっての幸せか?」

28年前、以前勤めていた会社を辞めて、お父様が創業された会社に入ってこられた宮原さん。お父様の話を聞き、後々後悔をしないために戻ってきたと言う。

学生時代の専攻を聞くと「ラグビーですよ(笑)」と言われるほど、ラグビー漬けの日々を送っていたそうだ。

「HPに載せてないんですけど、「幸泉たれ」というのが僕らの会社の哲学で。
でも、もともとは自己中心的な考え方なんですよ。自分は幸せになりたい。なにが自分にとっての幸せか?と考えたら、幸せな人に囲まれている事やな、と。家族・社員が一番、そのあと仕入先さん、お客様が幸せにという風に、幸せがどんどん周りに波及していくと言う発想なんですけどね」

「自分は幸せになりたい」という自己中心的な願いから、幸せな人に囲まれているのが幸せ」だと気づいた宮原さん。

私の勝手な想像で、社長さんが感じる”自己中心的”幸せのイメージは「高級時計を着けて」「高級車に乗り」「ゴルフ三昧」みたいなイメージでした。浅はか過ぎてごめんなさい。
(といいつつ、宮原さんのステキな時計に眼が行ってしまう)

「いやいや。1人ではなんにもできないじゃないですか。ラグビーはもともとそうなんですよね。いろいろな役割があって、ずんぐりむっくりの人も足が速い人もいる。僕らの時代はトライをとってもガッツポーズしたら絶対ダメだったんですよ。
結果としてはそこが見えているけれども、みんなで取った点だと。『One for all,all for one(一人はみんなの為に、みんなは一人の為に)』僕の中にはそれがしみついている」

でもここでまた一つ疑問が。お客さんにとっての幸せとはなんだろう?

「我々はお客さんからの要望を受けて、全てオリジナルの商品として作ってきました。
規模は日本でも一番小さいと思うんですけど、非常に細かなニーズに合わせて独自のモノを開発し、それを小ロットから作るということをしてきたんです。なので全商品・品種のラインナップでは日本国内、海外問わずダントツだと思いますよ。その50年の歴史が、この商品の数の多さになっているかなと思います」

 

お客さんの幸せを満たすために、量・質ともに要望に応え続ける。それを続けて来た結果がこのカタログなんですね。そう考えるとただの「モノ」ではなく、歴史と想いが込められた一冊の物語のように感じられます。

僕たちからすると『その違いでできなかったのか!』と

元々文系だった宮原さんは、入社してから初めて『ゴムスポンジ』について学び始め、そこでさまざまな壁にぶつかる。

「ゴムというのは、実はまだ解明されていない部分も多いんです。僕らも実務でゴムを扱う部分と勉強する部分両方が必要でした。そこで実際に現場に携わりながら研究されている学者さんの本を読んでみると「ゴムスポンジはアートだ」と書いてあった」

「ゴムスポンジはアート」その心は??

「スポンジは、研究所ではできるけれど継続して再現ができない。偶然でしかできない。そういう意味で「アート」っておっしゃってるわけです。
でも、偶然やったら工業製品にはならない。僕らも同じような壁にぶつかります。3カ月間同じ品物が延々とできなくて、何度もやりなおすんですよ。この作り方でもできないし、こちらの作り方でもできない。3か月間夜通しやりなおしながら・・・。それでもやはり再現できない」

私なら発狂するか、諦めますが…。

「そんな毎日を送っている時に気づいたんです。『ちょっと待てよ。俺たちゴムが原因だと思ってるけど、粉(充填剤)もスゴイ扱っているよね?』と。
そこで粉の本を買い、その道の権威の先生のセミナーが見つかった。参加してみると先生の第一声が『粉は魔物です』。
僕たちは、アート(芸術)と魔物の間に挟まれているわけですよ(笑)!!」

「アート」と「魔物」のはざま。なんだかより恐ろしく手ごわいモノと対峙している感覚になってきました。ですが、宮原さんがおっしゃった通り「それでは工業製品にならない」。

振返ってみると、私は本当に人を幸せにするレベルの『モノ』を作った経験がないのだ。料理を作ったりする。パンも焼いたことがある。でも、いつもどこか適当だった。

アートと魔物のはざまで、何十年もお客さんの二ーズに真摯にこたえながらなりわいを続けていく。その間の距離はどんなもので埋められていくのか。

「机上の勉強だけではモノはできない。実地だけでもできない。そこを埋めるのは『経験値』なんですよ。どれだけトライ・アンド・エラーを積み重ねて、自分たちの身にしたかということが効いてくる。僕らが生き残れたのは、経験値や判断基準を積み重ねてきたからなんです」

「アート」と「魔物」に向き合うドン・キホーテ。

そして、さらに新しく出て来た『経験値』という魔物を人から人に伝えていくのは難しいですよね。

「マニュアル化しだしたらすごい長いものになりますよ。残念ながら、それを明文化して、テキストを読みこなして、行動に移せる人はいない。
でも人間はもっとすごくて、実際にやりながら方法を見つけてしまうんです。マニュアルの行間にある表現を身につけて、作り上げることができるんです」

宮原ゴムさんは日本で唯一”連続気泡”のゴムを作る技術を持っている。ただし、それは元々持っていた技術ではなく、連続気泡を作る日本で最後の会社が廃業する際、技術を受け継ぎたいと名乗り出たからだ、という。

「技術の継承ということで、僕と技術のトップが4ヶ月、そこの工場で修行しました。機械が特殊なんで機械もこちらに移してきて、職人さんもお一人雇ってという予定だったんです。でもその人が移って来るのが遅くなった。でもすでに機械もある、検査も通った。我々も4ヶ月も作り方も習ったし、配合も教えてもらったから、職人さん来るまで待ってる間に自分達でもできるだろうと思ってやってみたら、できなかったんですよ。衝撃でしたよ。
でも、そのあと職人さんが来て『こうやって作ったけどできなくて、連続気泡になってなかったんだ』という説明をして、職人さんにやってもらったらすぐ出来たんですね。僕たちからすると『その違いでできなかったのか!』と。」

一体どんな些細な違いだったんでしょう。気になるが、企業秘密という事で教えてはもらえなかった。もちろん、言われても私にはなんのことだかさっぱりだったと思う。

「そんな事って言うとすごい失礼なんですが、そんなちっちゃなことでって。その会社の現場では当たり前のことだったんですね。ルーティンみたいにある程度こんなもんだって流れで暗黙知があったんだと思います」

その暗黙知の部分を技術として継承することが、マニュアルや机上の勉強では難しい。「団塊の世代が退職する」「技術を伝えていくことできていない」とニュースで読んでいたのは、こういうシーンのことだったんだ。

「偶然って続かないですよね。僕たちは一品物を作るわけじゃなくて、ずっと同じ質をキープして作っていかないといけないわけで、金太郎飴みたいにいつどこで切っても同じものであることを求められているんです」

宮原ゴム工業株式会社

所在地:(本社・工場)
〒 653-0032
神戸市長田区苅藻通1丁目1-20
TEL 078-681-2890 FAX 078-681-3312

HP:http://www.miyahara-rubber.co.jp/

野崎 安澄

NOZAKI AZUMI

兵庫県在住の2男児の母。NPO法人セブンジェネレーションズでオンラインの学びの場を運営。『育自のための小さな魔法』WSのファシリテーター。自分の人生を120%楽しみながら情報発信をしていきたいと思います。

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