2019.12.08

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ジャズ的協働から「こんな人たちいったいどこにいたの」な人に出会う場を 創りだすということ【前編】

ジャズ的協働から「こんな人たちいったいどこにいたの」な人に出会う場を  創りだすということ【前編】

文:佳山奈央

第1章:発足 「よくわからないけど、なんかおもしろそう」 何ができるかわからないところに、意思を持って飛び込む人たち、あつまる。

始まりは、6月。

この、いったい何をするかちょっとわからないけどみんなで実験しよう!という少しあやしめな、それでいて「お手伝いしたい」みたいな人は結構です、という強気なイベントページ。にも関わらず、集まってきた参加者のみなさん。

 

神戸のコミュニティ型シェアオフィスのスタッフ、スペインで合気道を教える道場主、教えることを優先しないという学習塾のオーナー、大学生の娘さんを持つ柔らかい雰囲気の中にも芯を感じさせる女性フリーライター、ウエディングプランナーからバリスタへ転職したばかりの女性、一人働き方改革と長年勤めた会社を退職したばかりの管理栄養士、そして保育園をつくりたいと会社をやめたばかりのシングルマザー(わたし)などなど。

年齢も、職業も、バックグラウンドも違う、ふつうに生きていたらなかなか出会うことのなかったような人たちがリベルタ学舎に集まった、梅雨のはじまり。

 

湯川カナさん(※)による導入と「なんだかよくわからないけど参加してみました(笑)」と言いながら、でもそれぞれの意思を感じさせる参加者のみなさんの自己紹介。自己紹介を聞いてなんとなく見えてきた共通項は、多分、それぞれ何か世の中に動かしたいこと、変えたいこと、生み出したいこと、があるということ。

【企画発起人】

(※)湯川カナ/リベルタ学舎発起人および代表、およびコラムニスト、および兵庫県広報官。

1女子の母、40代半ば。一般社団法人リベルタ学舎の発起人および代表、およびコラムニスト、および兵庫県広報官。3年前からシングルマザー。東京でYahoo! JAPANに立ち上げの後、スペインに移住してフリーライターに。帰国後、おしかけ故郷の神戸で起業、破綻、借金、離婚。そんなこんなしながら、「個人の解放」とその手段としての創業支援を続ける。

おそらく集まったメンバーで何かを企画していくんだろうなということと、みなさん何かしら明確な意思を持った方だなーということぐらいしかわからないまま「来週も同じ時間に同じ場所で(湯川さんにっこり)」と言われ、解散する初日。

「あれ?ほんとにみなさん今週も来られるのかな大丈夫かなこれ」と一抹の不安を覚えつつも来てみた翌週、初回よりは数名減っているものの、同じようにやや不安な表情はしながらもなんだかんだ集まった(笑)参加者のみなさん。

よくわからない(でもおもしろそう)と思いながら2週目も懲りずに集まったメンバーは、特に強制されているわけでもないけれど、3週目、4週目と安定的に参加されている模様。

【参加者紹介】

玉川衣寿美

思考力・判断力・表現力を育む、西宮・甲東園の学習塾の代表。震災後の仮設住宅で子どもたちが退屈しないようにと、自らの幼児教育に携わってきた経験を活かし、子どもたちが何もないところでも自ら工夫し、楽しみながら学べるよう、取り組みを始めたことが原点。

上野優子

神戸市西区で地元誌等の記者として活躍するフリーライター。大学生女子の母。引退後の父親が日々手持ち無沙汰に過ごす様子を見て、仕事を引退した後の男性の居場所が地域にできないかという課題感を持ってリベルタ学舎へ参加。

岩田加奈美

x情報xチャンスx場が有機的に繋がることで、思いを形にする場を増やしたい!という想いで市内複数のコワーキングスペースで働くパラレルコミュニティワーカー。趣味でオンラインサロンに参加したり英会話のコミュニティを運営する、根っからのコミュニティ好き。

中野英一

大学時代スペインに語学留学し、それ以来スペインに魅了され、帰国後日本の文化を伝えられる人になりたいと合氣道を始めた、合氣道の先生。表現することが好きで、演劇学校で学び、後に声優学校で演劇指導にも携わる。現在はスペインに合氣道の道場をつくる準備中。

竹内しのぶ

管理栄養士として複数の食品メーカーで活躍してきたが「働き方改革を自分で」と今年3月に退社。小学校4年生男子の母。現在「やってみたかったことに挑戦しよう」と、PTA役員、ヘアカラー、テニス等を始める。 夢は、こども自身が選択し、胸を張って集まれる場として駄菓子屋さんをつくること。

佳山奈央

大学生で出産したシングルマザーで、小学校2年生男子の母。今年4月までリクルートで企画制作を担当していたが、「お母さんをもっと自由にする」保育施設を立ち上げたいと退職。前職にいた際から湯川さんの密かなファンだったが、何もGiveできるカードがないうちに会いにいくのもと遠慮していた。が、退職直後会う機会をいただき、遠慮を捨てて湯川さんとお会いすることに。誘われるがままに未来なりわいカンパニーの第1回よりあいへ参加してみることになる。

多分、このメンバーで何か企画していく事になるんだろうなーでもほんとに形になるのかなー何ができるんだろうというのがおそらく共通の認識。このカオスな感じ、きっと代表の湯川さんが指揮をとって企画していくのかと思いきや、湯川さんは指揮を取るというよりは、ソロで演奏しながら参加者のジョインを促す感じ。

「面白い仕事は、ジャズ的なところから生まれるよね」

最近まで働いていた会社で、尊敬する先輩たちがよく口にしていた言葉を思い出す。

 

湯川さんから「なりわいとは、顧客を幸せにして、対価をいただくこと」という旗が立てられ、具体的な事業づくりのレクチャーを受けつつ2~3週目が終わる頃、第1回企画何かやりたいことがあるかが参加者に問いかけられる。

 

様子を伺いつつ「親子向けの夏祭りがしたいです」と手をあげてみる。

湯川さん「よし、それで行こう!」

 

あれ?そんな感じで決めちゃっていいのと参加者のみなさんを見渡すと、全員「いいんじゃない」みたいな朗らかな表情をされている。「あ、これはおもしろい場になるかもしれない」と感じ始めた瞬間。こうして未来なりわいカンパニー2019発足~第1回企画が動き出した。

第2章:企画〜準備 「佳山ちゃんが出会いたい人って、どんな人?」 企画者が、出会いたい人に出会える場を、みんなで考える。

第1回企画として「親子向けの夏祭り」をすることが決まり、中身をつめていく回がここから数週続く。

「なりわいとは、顧客を幸せにして、対価をいただくこと」

①「誰」を幸せにする?(ターゲット)

その人は「どう」幸せになる?(課題)

③そのために「何」を提供する?(解決策)

湯川さんが黒板に書いていく項目を、世代もバックグラウンドもカラフルなメンバーで一緒に議論していく。

「誰」を「どう」幸せにする? ―ターゲットと課題を考える

驚きだったのが、最初「親子」とざっくりしていたところをつめていくときに湯川さんはじめ他のみなさんからも「佳山ちゃんが出会いたいのは、どんな人?」という質問がとにかく何度も何度も投げかけられたこと。これまで仕事で何かを企画させていただくときのターゲット設定では「ああ、いるよねこういう人」像を思い浮かべてその人の生活や思考や欲求を、妄想したり調べたりインタビューしたりしながらつめていくプロセスがあったのだけど、それを自分自身についてじっくり考えてみたことは、意外となかったのかもしれない。

 

②の課題は「普段忙しく働くママと子どもが、同じような価値観を持つ親子と出会う場を提供すること」この課題は確かに企画者佳山自身がこれまでずっと感じてきたことではあるものの、結構課題もターゲットも一般化して考えがちなことに気付く。

 

例えば、

・忙しいからというのもあるけれど、いわゆる「ママ友」にいいイメージを持っておらずママ友作りに積極的に参加してこなかった

・ママという属性だけで友達になれるかというとそんなもんでもないでしょ?

・でも同じような価値観を持っているママとは友達になりたいし、親子で遊べるような友達も欲しいなとは思っている

 

といった今回の企画の課題のベースになるところから、

・子どもが学校や保育園などで多少ケガをしてきても、過剰に気にしない

異なる価値観に触れさせることを避けるバリアをあまり張ろうとしない(オープンな価値観、物理的な意味でなく心理的な意味で潔癖でない)

・子どもをお酒の場に連れていくところに抵抗がない

子どもを理由に自分のやりたいことを妥協したくない。一緒に楽しんじゃえと思っている

といった、その人の子育て、人生の価値観などなど。みなさんと議論を進める中でこれらが言語化されていったのだが、このあたりをはっきり言葉にするのを自分が避けてきたということにも徐々に気付かされる。

 

「こういう価値観の人と出会いたい、仲良くなりたい」というのは、決して「じゃない」人の価値観を否定しているわけではないのだけれど、きっと言葉にしたときに「じゃない」ことを否定されたと感じる人がいることにビビっていて、あまり言語化してこなかった。このようにターゲット(=佳山の出会いたい人)の特徴をみなさんに深掘りされていくうちに、ターゲットイメージが企画メンバー全員の中で輪郭がはっきりしてきて、共通認識化する。

みなさん「つまり、〜な人だよね?」 佳山「そうです!まさに!」

バックグラウンドがここまで多様な人たち、しかもまだ2~3回のMTGでしか接点のない状況で、この「ターゲット像の共通認識化」がかなり高いレベルでできることに感動していた。多分、議論しているメンバーが多様だからこそ、「佳山みたいな価値観の人」をそれぞれの立場や人生から多面的に見るからこそ、ターゲット像がより一層はっきりしていったようにも感じる。

多様性を重視したチーミングの価値これまでもよく聞いていた話だし、なんとなく「そうだよね」と思っていたけれど、ここまではっきり体感したのは、ここが初めてかもしれない。

そのために「何」を提供する? ―解決策の具体化と、その準備

「出会いたい人」の深掘り、「課題」の言語化が進み、具体的な解決策の話になったところで、議論が停滞し始める夏休みに親子が気軽に集まれる場として「夏祭り」を掲げ、屋台の内容や仕立てについての議論を和気あいあいと進めていく中で、湯川さんからの「それで本当に人は集まるの?」「地域の夏祭りと比べて何が魅力なの?」という問いに、つまる。規模でいうと、地域の夏祭りと比べて魅力的にはどうにもならない。

「自分と同じような価値観で生きる親子友だちをつくる」という原点に立ち返ると、別に屋台がたくさんあったり、輪投げやくじ引きができることが必要ではないことにはっと気がつく。

湯川さん「同じような人と出会いたいんだったら、佳山ちゃん自身が名前を出して、私や竹内さんと対談するみたいな企画を入れればいいじゃん」

3秒待ってから「いやあ私の名前だしても集まらないしそれはやめましょうよ」と断ろうと思ったが、メンバーの皆さんを見渡すと、これがまたみなさん「いいんじゃない」みたいな顔をしてこちらを見ている。正直、会社を辞めたところで別になんの肩書きも語れる実績もない中で、名前や顔を出すことにめちゃくちゃ抵抗があった。

でも、湯川さんはじめメンバーの皆さんが「佳山が出会いたい人に出会う」場をつくることにここまでコミットしてくださっていることを考えると、ここは騙されたと思ってやってみよう、と割り切ることにした。ここから急に「夏祭り」ではなくなったけれど、トークセッションを軸にした「親子革命スナック」に方向転換してからの方が、むしろ詳細を詰める議論はスムーズに進んだ。

「夏祭り」ではなくなり屋台を考える必要は無くなったが、そうはいっても親子イベントなので、子どもが楽しめるコンテンツは必要。食べ物を用意するだけで場が持つかな?親同士が会話しなければ意味のない場になってしまうが、食べ物だけだど結局子どもたちを見ていて親同士はあまり会話できないのでは

頭を悩ませていると、メンバーの玉川さんからぽつぽつと子ども向けのワークショップのアイデアが出てくるそう、玉川さんは子どもの創造性を育む学習塾を営むプロだったのだ。

震災後の仮設住宅で、何もないところでも子どもたちが自分で楽しみ方をみつけられるようにしたい、という想いから始まったという学習塾を営む玉川さんから出てくるアイデアは、すごく説得力のあるものだった。中でも子どもたちの年齢層などを考え、今回は「もし無人島に行くなら、何を持っていくか」を考え、発表する「空想無人島ゲーム」をお願いすることになった。これまで実践を重ねて来られたからこその工夫が滲み出たワークショップに、準備をお手伝いさせていただきながらプロの凄みを感じる。

こうして少しずつ具体内容が決まり、広報や準備を進めていったのですが、このプロセスが、まさにもう、ジャズ。

「広報用のプレス記事、私書きますね!」

slackの使い方、ここにまとめておきます!」

特に誰かが指揮をとって、タスクを振り分けることなく、それぞれが、それぞれのできることを手を挙げて進めていくというスタイル。企画詳細決定から当日までが2週間もなかった(!)こともあり、ばたばたと、でも自主的に広報や準備を進めつつ、誰も来なかったらどうしようという不安を全員が抱えながら近付く当日。

「大丈夫。実験だから。」

もし集まらなかったら集まらなかったで、その振り返りを次に繋げればいいよ、とにこにこする湯川さんに少し気持ちが落ち着く一同。

自分の名前を出したイベントがコケたら辛いなという不安以上に、何の拘束力もない集団が、同じ方向を見て同じものをつくることに、これだけ気持ちを入れてコミットできるのか、ということに感動しつつ、だからこそ少しでも、来て欲しい人たちに来てもらえますようにと祈りながら、当日を迎えた。

【後編に続く】

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