2023.05.19

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山本しのぶが副代表に就任します。

山本しのぶが副代表に就任します。

2020年5月18日に設立したなりわいカンパニー。事業拡大する中、山本しのぶが副代表に就任することとなりました。

 

覚悟、宣言、あるいは弱さについて。
―なりわいカンパニー副代表就任にあたって。―

なりわいカンパニー株式会社 副代表 山本しのぶ

「あなたにはできない」。前職で、とあるプロジェクトへの参加に挑戦したいと当時の上長に相談したとき、そんな言葉で反対されて参加が叶わなかったことがあった。――だって、弱いから。体力や精神力が、それを成し遂げるには不足しているからだと自分のなかで理解して、でも、ずっと苦い記憶として残っている。

 

「弱さ」は私の人生のなかで、ずっと引っかかりとして存在している。小さな頃から、身体が弱かったこと。学校や家庭という小さな世界のなかで、押しつぶされそうだったこと。頑張りたいこと、やってみたいことはたくさんあったのに、やり遂げられなかったこと。そんな自分とどう折り合いをつけて、生きていけばいいのだろうかとずっと思ってきた。

 

社会が「病い」という大きな渦に飲み込まれたコロナ禍。その最初の緊急事態宣言中である2020年5月18日、なりわいカンパニー株式会社は設立された。それまでのリベルタ学舎の実践をもとに、個人が自律的、主体的に自らの働き方を実践していく「場」として。「協働の広報」を軸に、「個と公共との関係性の構築」という価値を提供する「企業」として。

 

そのとき、私はその場にいなかった。当時9か月の息子とともに、岐阜の実家にいた。いわゆる「コロナ疎開」で3月から神戸を離れたのだが、実のところ、子育てがまったくうまくいかず、逃げ帰ったようなものだった。2019年に生まれた息子は、まぁ、「疳の強い」赤ちゃんだった。それは彼の好奇心の旺盛さと自我の強さ、そして独特の敏感さからきていたのだろうと、3歳になった息子を見ていると思うのだが、それは私の睡眠も体力も気力も奪い、生活が嵐のなかにたたき込まれたようだった。ありがたいことに実家を頼ることができ、「新型コロナ」という当時「訳のわからない恐ろしい病い」が社会に広がろうとしているなかで赤ちゃんを抱えて都会で暮らすことの不安もあり、私はいなかへ戻った。

 

2020年5月、ちょうどなりわいカンパニーが設立されたころ、再びこの場との関係を結び直し始めることになる。それまでリアルな場での開催が原則だった編集部の制作会議(私たちはそれを「編集道場」と呼んでいる)がオンライン化されたのを知り、実家から参加したのがきっかけだった。実家での生活のなかで心身が少しずつ回復し、今度は社会とつながりたいという欲が出てきていたのかもしれない。社会の形が変わってしまうほどの大きな衝撃に誰もが直面していたなか、急速なオンライン化というのは赤ちゃんを抱える私にとってはありがたい変化のひとつだった。その後、徐々に関わりを増やし、2021年4月から本格的に一フリーランスとしてこの場に参加するようになり、編集ディレクターとして企業や行政の広報媒体制作の編集、ディレクションを行うのと並行して、財務・アライアンス等のマネジメント業務を担ってきた。

 

今回、なりわいカンパニーの副代表にならないか、と代表の湯川から声をかけられたとき、私は何度か断った。事業拡大のなか、このままだと「湯川カナの会社」のままになってしまうのではという彼女の本能的な危機感は理解しつつ、いまの状況を変えるのは時期尚早な気がしたからだ。と言いながら、矛盾するようだが、断れるならやっても大丈夫かもしれない、そんな気持ちが生まれていた。なぜ、嫌なのかと問われてふと口にしたこと。「孤独になるのが怖い」。組織と個人はしばしば対立することがある。そんなとき、「経営」側の人間として立つということは、孤独になるということを意味することも多い。みんなのなかの私、ではいられないのだ。そんな恐れ、弱さ。

 

「だったら、それすらもこの場で出して考えていったらいいんじゃない?」そう言われてはっとした。なら、大丈夫かもしれない。自律分散的な個の集まりであろうとしている私たち。「強み」も「弱さ」も持つ多様な個人がその人らしく働くことを目指している。だったら、自分の「弱さ」を隠すのではなく見つめながら、どうしたらいいのかを考え、実践することによって、多様な個人が集まるこの場での「組織と個人」の関係を変えていくことができるのかもしれない。それは、自らを晒す、正直でいるということの恐怖も伴うことではあるけれど。

 

「弱さ」というのは圧倒的な力を持つ。強制的に、人を、社会を立ち止まらせる。赤ちゃんという存在も、病いや心身の不調も、恐れや不安も。直視せざるを得ないし、強制的に現状を変えてしまうこともある。それに飲み込まれ、「苦い記憶」にしてしまわないためには、その「弱さ」をまっすぐに見つめ、「じゃあ、どうしたらいいのだろうか」を考え実践し続けることだ、といま思っている。「嫌です」と声に出してみたことも、私にとってはきっとそのひとつだった。なんで私は嫌なんだろう、なんでそこに違和感があるんだろう。そしておそらく、それを出せる場にこの場はなっていこうとしている。

 

否応なく向き合わざるをえない「弱さ」に対して、正直に相対していくこと。毎日じたばたしているし、笑ってしまうくらい情けない。でも、だからこそ、仕事を通してひとりひとりの「個」が立ち上がる場をつくっていくことができるのかもしれない。そう、考えている。これが私にとっての宣言であり、社会との関係のなかで変わり続けていこうとする覚悟のようなものかもしれない。

 

なりわいカンパニー設立3周年の日に。

2023年5月18日

《山本しのぶプロフィール》

大阪大学人間科学部卒業後、リハビリテーション専門学校にて作業療法を学び、作業療法士として病院、高齢者施設等で働く。その後、リベルタ学舎・なりわいカンパニーにフリーランスとして関わり、企画・運営、編集、広報、マネジメント業務等に関する経験を積む。編集ディレクターとして、内閣府防災による自治体向けポスター・リーフレット制作、兵庫県の観光キャンペーン広報タブロイド紙制作(神戸新聞社)、六甲バター株式会社社内広報紙制作、ウェブメディア「DEMOくらし日本酒with白鶴酒造」(日本酒×旅特集)制作、神戸市の広報媒体(チラシ、リーフレット、ウェブ記事等)制作などを手掛ける。

なりわいカンパニー

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