2019.06.02

クローズアップ

企業の原点回帰としての「協働」。これからの「巻き込む」リーダーシップ。

企業の原点回帰としての「協働」。これからの「巻き込む」リーダーシップ。

インタビュー・文:湯川カナ

 

リベルタ学舎「その先の社会研究会」では、2019年度、企業・行政・個人・学生が最先端の知見を共に学ぶ『協働アカデミー』を実施します。

6月15日(土)、同研究会代表の福井誠教授(経営情報学・社会心理学/流通科学大学副学長)を講師に、基調講演あなたの未来を切り拓く、『協働』の作法を手に入れろ。」を開催する……のですが、私自身、「協働」に野生のカンでピンときているだけで、じつはその言葉の意味すらあやふや。

なぜ今、「協働」がキーワードになるのか。
講演で解説していただく「協働」の「そもそも」の部分を、当日に先だって湯川が伺ってまいりました。


個人と組織の寿命が逆転した今だからこそ、「協働」。

湯川: あの、私は勘だけで生きているというか、理論は後付けというところがありまして。これからの時代、「協働」という言葉が、働き方や生き方のキーワードになってくると思うのですが、「なぜそうなのか」という部分を、社会心理学や経営情報学に精通されている福井先生にお伺いできればと思っています。

で、早速ですが……そもそも「協働」という言葉の意味がよくわかっていないことに気づきまして。

 

福井: 相変わらずの無茶ぶりですね(笑)

協働は専門領域ではないです。でもまあ、私も「協働」というのはこれからの社会を考えるキーワードになると思っていますので、何かお役に立てることがあるかもしれません。

「協働」という言葉がわかりにくいのは、もともと行政用語だからですね。行政用語というのは非常にわかりにくい、一般的に。ともかく、「協働」はもともとはアメリカで、役所と個人のアライアンス、いわば「提携」を表す言葉として生まれています。アライアンスといっても、以前は、行政から民間に対して協力を要請するという方向性で、対象もNPOや婦人会などの組織だった。

そこから現在は方向性が変わり、いわば川上と川下が対等になっているなかで「協働」の意味も対等な関係性を前提とした提携に変わり、また行政に限らず広い分野で「協働」が必須になってくるだろう、ということですね。

 

湯川: えっと、よくわからないのですが、なにか具体例などはありますか?

 

福井: たとえばインターネットなどが、もろにそうですね。

かつてはインターネットはまさに協働の場だったのが、特定のサービスが個人の情報を吸い上げて一方的に活用していくような状態になってしまった。でもこれからは個人が自分の情報を組織に売るようなかたちになっていくともいわれてますね。たとえば今年になって総務省も提唱している「情報銀行」などは、まさにこの話だと理解できます。

「中央集権から自律分散に」というのは、情報化の本来的な方向性です。その過渡期として、GAFA(Google、Amazon.com、Facebook、Apple Inc.)のような強大な権限をもったサービスが出てきた。ただ、それはよくないよねということで、この情報銀行や、ヨーロッパでのmidataやGDPR(EU一般データ保護規則)など、「個人の情報は個人に帰属する、それを組織に提供こともある」という方向に、世界中が一斉に向かっていますよね。まあ、GAFAで儲けているアメリカと国が統制する中国以外は、ということなんですが。

 

湯川: なぜ、いま、このような流れが起こっているのでしょう?

 

福井: それは、個人と組織の寿命が逆転したからでしょうね。

人生100年時代と言われる一方、企業の平均寿命は20数年といわれますね。こうなると、以前は「しっかりした企業に勤めていれば安泰」だったのが、もはや「ひとつの組織に依存することはリスク」となってくる。どうしても相対的に、寿命が長い個人の方が強くなり、寿命が短い組織の方が弱くなって結果的に対等になってくる。

とすると、従来のように「組織に属することが自分である」と規定するのではなくて、「自分であることが、組織に貢献する」、さらには「自分であることで、組織を介さずとも社会に貢献できる」という方向性になってきますよね。

この「個と個のアライアンス」というのが、自律分散型社会における本来的な在り方のはずなんです。だけどもその過渡期として、これまで組織が持っていた機能や権限を保証するため、そしてリスクを分散するために、協働によってゆるやかな組織のようなものをつくりましょう。ただしあくまで中間的な形態なので、ここには組織も個人も対等に参画するものとします、と。こういうことかと思いますね、はい。

情報がイーブンに交換される社会では、「お金のストックの多さ≠豊かさ」になりゆく。

湯川: なるほど、たとえばタクシーの例で考えると、こんなかんじでしょうか。

(1)本来は個々のドライバーがそれぞれ仕事をすればいいのだけど、取引コストを抑えたり、お客さんがいなかったり体調を崩して食いっぱぐれるリスクを減らしたりするために、「会社」という組織に属する形態が一般的になった。

(2)インターネットなどの技術革新によって、「個人対個人」の取引コストはかなり下がった。だけどこの過渡期に、まるで従来の会社の代わりとなるように、個々のドライバーの情報を一方的に利用するUberのような組織が現れて巨額の富を得ている(GAFAの構造)。

(3)しかし今後、より自律分散型の社会へとなっていくと、Uberのような”対等でない”情報独占型の組織は退場し、個と個のアライアンスに基づく取引が基本になっていくだろう。

……福井先生、いかがでしょうか?

 

福井: まあ、だいたいそんなところで良いかと思いますね。ブロックチェーンに期待されたのもそのような機能ですよね。

ただし(3)は、対等な個と個のアライアンスに基づく取引が基本の社会であれかし、という、我々の願望もありますけれども。どう考えても、力の強い者が一方的に情報を収集して利用することで巨額の富を得ているという現状はフェアではないし、結果的に効率的でもないでしょうから。

 

湯川: その富はみんなから集められているわけで、いまのGAFAやUberのような「過渡期に中央集権的に振舞う情報独占型の組織」が退場したら、富はより個々人に分散される……はずなのですけど、でも、あれ? なんか、「タクシードライバー以上に儲かっているUberドライバー」って聞かない気がします。なんでだろう?

 

福井: ひょっとすると、お金というものの意味合いというか価値が変わってきているのかもしれません。

キャッシュレス化ってのも同じ文脈で考えられますが、お金というのはそもそも、情報なんですね。ぐっと圧縮された情報。「この商品はこういう人が、こういう思いで、こういうプロセスで、こうやってつくられた素晴らしいものなのです」という情報をいちいち交換するのは大変だから、「この商品は10万円の価値があります」と情報を圧縮した。

ただ、もちろん、だから「欠落している情報」も非常に多くあったわけです。「本当に価値があるのか?」という問いには、価格だけでは答えられないですよね。

だけどインターネットなどの情報技術の進展によって、お金だけが情報ではなくなった。どういう商品かということを、私たちはネットで検索しますよね。自律分散型というのは、情報がイーブンに交換される社会でもあります。なので、お金のストックの多さだけが豊かさの基準ではなくなってくるのかもしれません。もちろん、すぐになくなることもないと思いますが。

タクシーとUberのドライバーの場合も、「組織のルールで長時間勤務して疲れ果てて収入〇万円」と、「自分の意思決定による勤務で、家族との時間、また複業や学びなど今後のスキルアップの機会も確保しながらの収入〇万円」というところまで、もし比べたいのなら、しっかりと見た方が良いかもしれないですね。

「協働」をファシリテートするのは、調整して周囲を共感させて巻き込める人。

湯川: なるほど。これまで近代社会を支えてきた、会社などの組織や、お金は、すぐになくなるわけではない。だからといって、そこだけに依存した生き方だと、これからはリスクが大きくなるかもしれない。そんなかんじでしょうか。

 

福井: そうですね。「協業」による組織は、ひょっとしたら株式会社になる以前の企業の最初のかたちの、「ともに出資し、ともに執行する」LLC(合同会社)やLLP(有限責任事業組合)に、むしろ近いのかもしれません。こうなるとLLCやLLPは最初から存続期間が定款に定められていますから、組織はさらに短命になる。

こういう組織からもさらに行政からも独立した個人同士のネットワークが、今後は社会の中での実施主体になり、そのネットワークで何かコトを行っていくこと、つまり協働が必要になる。もともと、「何かを起こしていくこと」、つまり「『なりわい』を『くわだてる』」組織が文字通り「企業」なのですから、今後は「協働」というふるまいこそが、従来の企業にとってかわるのかもしれません。

そのときに必要となるのが、この新しい「協働」をファシリテーションするひとの能力、つまり新しいリーダーシップです。

 

湯川: わ、めっちゃ気になります。ソーシャル界隈でも新しいリーダーシップのかたちというのは、よく話題になっているんです。で、具体的にはどのようなリーダーシップになるんですか?

 

福井: それは、従来の「計画して統制する」タイプ、いわば「俺についてこい」型のリーダーシップから、「調整して周囲を共感させ巻き込む」タイプのリーダーシップになっていくといえるかもしれないのですが……あとは長くなりますので、基調講演でのお楽しみ、ということで。

 

湯川: さて、これで、今日のインタビューにおける私の役割は果たせたということになりそうでしょうか?(笑)

福井 誠(ふくい まこと)
流通科学大学副学長/「その先の社会」研究会代表

1957年神戸生まれ。博士(人間文化学)。民間シンクタンク、広告代理店経営などを経て、大学教員に。現在は、流通科学大学経済学部教授(副学長)。専門は経営情報学部、社会心理学。マーケティング学会ソーシャルメディアアンドビジネス研究部会リーダーなど学会活動の傍ら、元町商店街やトーアウエストで実験的にシェアードキッチンの経営なども行う。

 


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編集部

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神戸でなりわうPROJECTの編集部による記事です。

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