りそな総合研究所リーナルビジネス部長 藤原明氏: つかみどころのない議論プロセスをどう辿る? 課題を明確にして、協働を喚起していく方法論。
インタビュー・文:湯川カナ
リベルタ学舎が2019年度実施する「協働アカデミー」。全4回の1DAYセミナーを通して、企業・行政・個人・学生が最先端の知見を共に学びます。
7月10日(水)に開催する第1回のテーマは、「理解できない隣人とコミュニケーションし、協働プロジェクトを起こせ」(イベントページ)。
地域なら企業と行政と住民、社内なら管理部門と生産部門。協働がうまくいくためには、コミュニケーションの成立が必要……ながらも、実際には、様々な立場のひとのそれぞれの意見が飛び交うだけとなることも。
講師の藤原明氏(りそな総合研究所リーナルビジネス部長)にも、「なんで銀行と組まなあかんねん」「誰がそんなテーマを勝手に決めたんや!」と言われた日があったそうです。
藤原氏が実践する「リーナル式」(RESONA:りそな銀行 + REGIONAL:地域)は、何をきっかけにどうやって生まれたのか。協働アカデミー企画者の湯川が伺いました。
意気消沈した若手時代、「銀行を変えることを自分のライフワークにしよう」と思い至った。
湯川: 藤原さんは銀行マンでいらっしゃいますが、じつは私、銀行があまり好きじゃないというか、良い思い出がないんですよね。個人事業を始めるとき、都市銀行は屋号つきの口座を開設させてくれなかったし。融資なんて、当然ない。数年後、事業が軌道に乗ると今度は「お金借りませんか」と聞きにこられて、「えー、今?」みたいな。大変なときに助けてくれない、リスク取らない冷たいところ、ってイメージが……すみません。
藤原: いや、そう思われても仕方がない側面もあると思います。本当に、ごめんなさい。だいたい僕自身が、支店配属初日に「何か違う、辞めよう」と思ってますから。違和感を抱くことが多かったです。学生の時はキラキラしていたはずの目がいつの間にか輝きを失くしているなんていう人も…。なんちゅうとこや!と。
僕ね、大学時代は落研の傍ら(笑)、ゼミで「流通組織論」って市場、商店街、百貨店など商業施設のマーケティングを学んでたんです。フィールドワークを大切にされていた先生で、まさに「現場に答えがある」って感じでした。で、「まちづくりのコンサル会社で勉強してこい!」ということになり、アルバイトに行って、実際の企画もじゃんじゃんさせてもらってた。
で、そういうことをできると思って銀行に入ったら、全く違ってたんですよね。ゼミの恩師に「3年くらい続けてみたら?」とアドバイスをいただいたので、何とか行ってたんですけど、嫌で嫌で仕方なくて。
ある休日、忘れもしない、雨の中で車を走らせてるときに「銀行は岩盤みたいなもんだから、変わらないだろうから、銀行を変えることは飽きないだろう。そうだ! 銀行を変えることを自分のライフワークにしよう!」と思っちゃったんですね。そしたら、肩の力がスッと抜けた。
それから、「ここおかしい」「こうしましょうよ」ってどんどん働きかけるようになりました。もちろん変わり者ですよ。完全に浮いてました。でも、喜んでいただける方も出てきて、だんだん楽しくなってきたのかな。
湯川: そのまま、今日まで続けていらっしゃるんですね。
藤原: 「りそなショック」ってご存知ですか? 2003年、なので、湯川さんはスペインにいらっしゃった頃ですね。りそな銀行が経営危機に陥って、公的資金の残高が3兆1280億円になったんです。その時にJR 東日本から新しくやってきたトップが故細谷英二会長で、ファーストメッセージが「新しい銀行像を創ろう!」だったんですね。
僕が「銀行を変えたい」と決意したものの、一方で、そんなことはなかなか実現できない……とも思ったていたところに、それをやろうという経営者が現われたんです。入社して11年後です。運命を感じました。それから本部転勤になって、上司に「新しい銀行像は、まだ誰もイメージできない。みんながイメージできるように、どんどんカタチにせよ」と後押ししていただいて。後に銀行の副社長、そして僕がいま兼務している総合研究所の社長となる方です。
「なんで銀行と組まなあかんねん」と言われたあの日。
湯川: どんなことされたんですか?
藤原: まずは大阪の天神橋筋商店街の理事長に「新しいことしましょ」と言いに行ったんです。そしたら、「なんで銀行と組まなあかんねん。お前みたいな眉唾もんと一緒にやんの嫌や」って(笑)。湯川さんと同じで、そもそも銀行への信頼がない。そりゃそうなんです。それでも日参して、新しい商店街と銀行のおつきあいのかたち作ってみましょう、って。
大学も巻き込んで、商店街にある4つの銀行店舗だけで扱う限定定期預金をつくらせてもらうことになったんです。そこのだけ、証書入れの裏側に天満宮さんの御朱印を押してあるというもの。でも社務所は商売には御朱印は貸せないとおっしゃる。「商売だけでなく、まちおこしなんです!」ということでOKをいただいたのですが、御朱印を「はい」って渡されて……僕が1日中、御朱印を押すことになって。その姿を見て、これは盛り上げなあかんと商店街の理事長をはじめ皆さんが動いてくれたんですね。結果、11億円の預金が集まりました。
湯川: わ。すごい手腕ですね。
藤原: いや、僕は御朱印を押し続けてただけで(笑)。預金が集まったことよりなにより、これでいろんな所からお声がけをいただけるようになって。そんなことがあって少しずつ、本社の講堂で映画の試写会をしたり、フリーペーパーつくったり、お酒を造ったりと商店街との関係をつくっていくなかで頼まれたのが、「天満天神繁盛亭」を建てる資金集めのアイデアでした。大阪は町民のまちなので、みんなで小口分散で集めたいと。
僕もともと落研なんで、こんなの、他人事じゃないでしょ? それでキックオフイベントとしてチャリーティー寄席を企画したら、桂ざこばさん、桂三枝さん、笑福亭鶴瓶さんが出てくれることになって。知ってます? 実はみなさん所属事務所が違うので、これってけっこうミラクルなんです。当日はもう、夢のようでしたね。
そんなこんなで、いろいろありましたが、上方落語協会さんと天神橋筋商店街さんが力を合わせたのがやはり大きくて、2年半かかって2億円以上の寄付が集まりました。そのきっかけづくりに「銀行として」参画できたことは、もう、この上ない幸せでした。
他にも、当時の上司の役員に、毎日のように企画書を書いてもっていってました。上司の応援もあって、無名のアーティストを発掘して活躍の場を創るというFM802のアートプロジェクトとコラボしたキャッシュカードを作る企画に携われたり、すいとうのある暮らしを提案する編集者の思いを受け、FM802さんと野外フリーマーケットイベントで「すいとうを持とう!」というムーブメントを起こして、ステンレスボトルメーカーのマイボトル運動のきっかけをつくったり……これらも話題になりましたね。
つかみどころのない議論プロセスをどう辿る?
湯川: そんな手腕が国外でも評価されて、アメリカの国務省からIVLP(インターナショナル・ビジター・リーダーシップ・プログラム)で招聘されることになり、後には、雑誌AERAで「日本を突破する100人」にも選ばれる……と。ちょっと、なんだかすっかり順風満帆な銀行マン人生じゃないですか?
藤原: いや、逆風の嵐です(笑) 社内では「あいつ何やっとんねん」ですよ。それで上司から呼ばれて、大手町の夕陽差し込む部屋でね、「これから予算ゼロでいけ」って。はぁ? でしょ。でも「いいか、世の中のベンチャー企業見てみろ、みんな予算ゼロや。それでも、ほんまもんやったら、誰か助けてくれる。お前やったらできるんちゃうか」って。そう言われたら、何かできそうな気になったんですね。
そこからが本当の意味で始まったのが、『リーナル式』です。RESONA(りそな)とREGIONAL(地域)の造語なんですよ。銀行なのに予算ゼロなので、地域のみなさんと力を合わせて、ひとつひとつ事業をつくる。銀行なのに、というか、銀行だから、お金ではなくて情報を整理して支援する。それまでに小さいものばかりですが500以上の協働プロジェクトを実現させていたので、そこでのトライアンドエラーをベースに手法を確立していったのです。
でもね、ひとつも楽じゃないですよ。大阪の地域活動の重鎮の方々に「誰がそんなテーマを勝手に決めたんや!」なんて怒られたりしながら、それでもつかみどころのない議論プロセスを辿るにはどうしたらいいかを摸索し続け、「はじまりのはじまりを、いっしょにつくる」をやり続けてます。ともかく現場の数と実績では、どこにも負けない自信がある。
湯川: うーん、わかるような、わからないような。ちょっと詳しく、教えてください。
藤原: もちろん! あのね、まちづくりであれ、企業であれ主役は、現場のひとでしょ。現場にはリアルな意見や情報がある。それをまとめていくと、本質的課題、つまり、「やるべきこと」がだんだん明確になってくるんです。
課題が明確になれば、それを解決すべき「強み」もどんどん集まってきて、無理のない形で解決できる。これが、「お互いの足りない所を強みで補い合う」という協働をどんどん喚起していく方法論です。偶然ではなく、必然としての協働ですね。
具体的には、多様なさまざまな参加者のコミュニケーション・ギャップがあることを前提に、テーマを決めて、課題を整理・分類し、最重要課題に絞りながら、その課題を浮き彫りにする数字の裏づけを取り、課題に対するこれまでの取組を徹底的に検証し、限界点、阻害要因や工夫のいるところをまとめていき、最終的に「やるべきこと」を明確にする……ということをします。
「リーナル式」は誰でも、現場の声をかたちにする"触媒"になれる。
藤原: それを今回のセミナーでは、1日でぎゅっとコンパクトに、一通りやってしまいます。……っていうことも、言っておいた方が良いんですよね(笑)。でも本当に、『リーナル式』は、誰にでもできるんです。なぜなら主役は、現場のひとだから。我々はその声が表に出てきて、かたちになっていくために、必要なピント合わせのお手伝いをするだけです。これからは地域や企業に、そういう「触媒」になるような人が増えたらいいですよね。
湯川: それでいま、全国を飛び回ってらっしゃいますものね。このあいだは愛媛県の地域づくりだったし、今日は、神戸の中央卸売市場でしたよね。
藤原: 銀行マンとして、まちのひとたちが自分たちのまちを自分たちでつくっていくお手伝いをさせていただくのは、本望ですから。それが本来の銀行の役割の1つだと思いますし、まだそれができていないから、湯川さんみたいに「銀行要らん」って思ってる人もいっぱいいるんやと思うんです。まだまだ、やるべきこと、やれることが、いっぱいある。
僕ね、会長に「新しい銀行像をつくるというリーナルの活動をやり続ける」って約束したんですよ。でも、まだ新しい銀行像できてないでしょ? 会長は亡くなられたんですが、僕はただ、その約束を守ってるだけなんです。
藤原明
りそな総合研究所リーナルビジネス部長2000社以上にヒアリングしその潜在価値を再発見してきた銀行マンとして、産学連携・社学(地域)連携・官民連携による地域協働プロジェクト創出セオリー「リーナルプロジェクト」を考案。一例として大阪市24区のうち13区、大阪府33市9町1村のうち15市4町、埼玉県3市、愛媛県6市3町で、コミュニティ支援、企業・起業支援にかかわっている。 立命館大学経営大学院客員教授。大阪府まち・ひと・しごと創生推進審議会委員。“日本を突破する100人”(AERA)に選ばれている。
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