2021.02.17

なりわいを考えるシリーズ

「仕事」が見つけた「タケウチシノブ」 なりわいカンパニー(株)竹内しのぶさん【前編】

「仕事」が見つけた「タケウチシノブ」 なりわいカンパニー(株)竹内しのぶさん【前編】

文:野崎安澄 写真:桂知秋

「絶対、自分の名前で仕事したくないって言ってたし、今もそうなんです。とにかく黒子でいたい」
自分の名前で仕事をすることへの抵抗。
できれば隠れていたいという衝動。
彼女のこの言葉を聞いて私の中に響いた第一声は
「あぁ、わかる。ホントにそうだよね」
だった。

NPOの代表理事になって2年。 DEMOくらし編集部でライターだってしているし、自分でプロジェクトを立ち上げること も、誘われることもある。
一般的には「自分の名前で仕事をしている」の括りに入るのかもしれない(知らんけど)。
でも自分にとってはそれらの肩書きさえも、自分自身を隠す隠れ蓑のような存在なのだと、改めて気づく。
その肩書を出しておけば、自分の名前はその陰に隠れておくことができるのだ。
だから「自分(の名前)」をキラキラと輝かせながらなりわっている人を見ると、 私の中で「イラッ」とセンサーが発動する時がある。
それは、自分の奥の奥にある、実は自分もそうしたいという願いが反応していることは、 よーく分かっている。
でも、厄介なもので「なんかイラっとするし気になるわー」という感情自体はコントロール できない。

憧れと羨望と嫉妬と。

その「イラッ」を丹田まで飲み込み消化し、吐き出した先には、一体何が産まれるのか?
今回は『神戸でなりわうプロジェクト』の発行元、なりわいカンパニー株式会社の竹内しの ぶさんへのインタビューを通じて「なりわう」こと、「自分の名前で仕事をすること」につ いて探求します。

竹内しのぶ(なりわいカンパニー株式会社)
大学で栄養学を学び、管理栄養士の資格を取得。伊藤ハムで品質保証、お弁当チェーン本部でメニュー開発、粉ミルクメーカーで研究開発、マルカン酢での商品開発・マーケティング・広報を経て、現職(2021年2月現在)

「タグ」を増やしていくこと

「自分の名前で仕事をする」ということへの違和感を語ってくれた竹内さんが、今回『​アスレシピ​』のママ特派員になって記事を書くことを選んだという。

竹内:
偶然”ママ特派員募集”と言うお知らせが目に入ってきて、直感的に申し込んだんですよ。

私はどこの誰だかわからん人が言っている事って共感できないですよね。
それなら「自分」という人間に共感してもらって読んでもらうのがいいな、と今回は思ったんです。
世の中に管理栄養士や料理家の人はたくさんいる。
でも管理栄養士で、お酢のメーカーに勤めていた「竹内しのぶ」、私だからこそ”今このレシピ”という提案ができている。私しかできない記事を作りたいと思ったんです

 

竹内:
リベルタに関わっていると
『自分の名前で仕事をする』ってすごい言うし、聴くじゃないですか。
そして最近、弁護や司法書士の士業の方々と話をしてて、”ただの弁護士・司法書士はもう溢れているから、自分にしかできない何かがないと生き残れません”っていう話を聞いたんですよね。
資格そのものが意味がないと言うことはないんですが、その資格を持っている”この人”だから仕事をお願いします、と言うのがないと、仕事ができないんだと

先日NewsPicksの番組OFFRECO.「アジア最強ヘッドハンターが伝授!キャリアアップ術」を見ていた時のことだ。
毎日数百と履歴書が送られてくるヘッドハンターたちが「なんか会ってみたいな」と思うのは付けている「タグ」が多い人と言う話をしていた。
「弁護士資格」や「○○株式会社の部門長をした経験」はもちろんタグの一種類だが「運の良さ」なんかもタグに入る。
逆に「その人が選んだ会社が2年ごとに倒産していってしまう(不運さ)」「倒産したが、そこで最後まで逃げずに残った(責任感)」と言うようなタグもあるらしい。

タグの掛け合わせによって、その人の希少性が研ぎ澄まされてくるというのだ。
ヘッドハンターの人たちは、その人の数あるタグからストーリーを作り企業に推薦する。
本の帯のような役割だ、と自分たちのことを言っていた。
じゃあ、ここで出てきた「自分にしかできない何か」とは自分についている「タグ」のことなのだろうか?
「自分の名前で仕事をする」って果たして「タグ」を増やしていくことなの?

一方で、一緒にNewspicksを見ていた会社員の夫のボヤキも思い出す。
「自分でタグを作るって、会社じゃ難しいんだよなぁ」
彼は今年(2020年)12月に異動になった。
ここ10年あまり2-3年で会社事情で様々な部署に異動になっている。
働く部署も仕事内容も自分で選べない。つけるタグを選べない会社員という仕事では、究極的にいうと「自分の名前で仕事をする」はできないのだろうか?

「あなたの名前」と仕事をしたい

私の中にある「自分の名前で仕事をする」という言葉への違和感の一つは、一人で完結する仕事なんて存在しないと思っているからだ。

1人仕事をしていると思っても、実は多くの人の手を借りている。
また、生み出した仕事の価値を受け取る相手がいて、初めて「仕事」は成り立つ。
複雑に絡まり合う関係性の中で仕事は成り立つのであって、文字通り人間は1人では生きていけない。

例えば竹内さんの例。
記事を書くことは「自分の名前」をつけた仕事として1人で成り立つ。
だがその記事を掲載する「アスレシピ」のサイトには編集者がいて、載せているサーバーの運営者もいて、会社の入っているビルのメンテナンスをする人もいるだろう。竹内さん以外に記事を書いてくれる人も必要だ。
そしてもちろん、記事を読んでくれる、価値を受け取ってくれる相手が必要になってくる。

竹内さん:
実は私のレシピ、他の記事と比べて「いいね!」やシェアの回数が多かったんですよ。
しかも、シェアしてくださった中に少年野球チームの人がいたんですね。
それがとにかく嬉しくて!
アスレシピは実はニッチなレシピサイトで『アスリートのためのスポーツ栄養・食育のためのサイト』なんです。
私の子供もずっとスポーツをしていたし、子供たちは成長ステージに応じて必要な栄養素が違う。それに応じて出す食事も変えたりすることが大切。
だからこそ、同じようなテーマに興味を持っている人たちに、届けられたという事実がすごく嬉しかった。

なりわいカンパニーで働く中で何度も耳にする「届けたい人に、届ける」という意味は、これかー!と。

今回の発信は、興味のない人を振り向かせるというよりも、こういうのないかなって探していた人にきちんと届いた実感があるんです

1人で仕事が成り立たないと理解しながらも、それでも自分の名前で仕事をする意味は何か?
実は彼女のレシピをシェアした少年野球チームにとって、「竹内しのぶ」という名前自体には意味はない。タケウチシノブという、ただの音を持った記号。
もしかしたら、その記号である名前に「信頼」という感情・感覚が付与されたとき、初めて記号ではなくなり意味が生まれる。

「竹内さんに仕事を頼めば、毎回お願いした以上の価値を生み出してくれる」
「竹内さんは管理栄養士で、お酢の会社で研究開発をしていたから、お酢に関する知識や知恵が豊富だ」

自分の名前で仕事をすることの意味は、自分自身が何を持って覚えられる存在になるのか?をくっきりと描くために必要なのかもしれない。そうなってこそ初めて、関係性で成り立つ仕事の生態系の中で、自分が担う役割をはっきりさせることができる。

マルカン酢会社員時代、熱くお酢について語り、広報としてSNSなどでも発信していたが「なかなか見てもらえているという感覚がなくて寂しかった」という竹内さん。
「なりわいカンパニーで働く中で何度も耳にする「届けたい人に、届ける」という意味は、これかー!」という初めての実感。

もしかして、今回自分の名前で仕事をする一歩を踏み出し、自分自身と外との境界線がくっきりしたことで「届けたい人に届ける」「ちゃんと受け取ってもらえる」が生まれたのではないだろうか?
そして、自分の名前で仕事することは、「自分の名前」という記号に「信頼を積み重ねていきますよ」ということを、覚悟して引き受ける意味があるのかもしれない。

「自分にしかできない何か」のタグを名前に付けて増やしていくことはもちろん、同時にそのタグの再現性や持続性を証明し続ける必要がある。でなければ、誰も「あなたの名前」と仕事をしたいと思ってくれなくなるからだ。

野崎 安澄

NOZAKI AZUMI

愛知県在住の2男児の母。NPO法人セブンジェネレーションズ共同代表/愛知アーバンパーマカルチャー発起人。東日本大震災・福島第一原発の事故をきっかけに、子供達に7世代先まで環境的に持続可能な美しい地球と公正な社会を残すための活動をスタート。持続可能な環境・社会を作るためのワークショップやオンラインコースの立ち上げ・様々なコミュニティ運営を行っている。2020年は愛知で仲間達と本格的な米作り&畑もスタート。自分の人生を120%楽しみながらDEMOくらし編集部で編集/ライティングをしています。

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